Naotoshi Osaka Music Pieces Notes
小坂 直敏 コンピュータ音楽 作品集

はじめに

1991年よりこれまでに作曲されたコンピュータ音楽作品 14曲の概要を記す。

筆者自身はコンピュータ音楽の技術の中では、ひたすら音合成の 研究を遂行している。また作品もこれらの技術に依存したものと なっている。これはミュージックコンクレートの流れを汲むものである。 これは、絵で例えれば絵の具作りをしているようなもので、 MIDI接続による音源駆動などの出来上がった音の直接制御による音楽に比べ非常に 作曲効率は悪い。
しかし、このやり方は音色を根底から 追求するという姿勢であり、将来の音楽の核になると筆者は信じて いる。また、現在でもMIDI制御のみでは表現できない味わいのあるキメ 細かなものである。


作品概要

  1. 雫の崩し ― バイオリンとコンピュータのための Program note
    1991.8.4  コンピュータ音楽アンデパンダン・コンサート
       [神戸ジーベックホール]初演。
    1993.9.10 ICMC'93 (国際コンピュータ音楽会議)
       [早稲田大学井深ホール]
       白木 善尚 (Violin)
       小坂 直敏(ソフトウェア製作・コンピュータ操作)
    1999.4.23 電気通信大学 公開講座
       [電気通信大学 ホール]
        甲斐史子 (Violin)

  2. 雫の崩し―バイオリン,オーケストラとコンピュータのための Program note
    1999.3.21 NTT コミュニケーション科学基礎研究所実験
       「オーケストラとスピーカ音の融合」
       [新宿オペラシティ,リサイタルホール]改訂初演
    コンピュータとオーケストラのための
       甲斐史子 (Violin)
       新星日本交響楽団 (orch)

  3. 喃語 ``YayaYa'' ―ソプラノ,バイオリンとコンピュータのための Program note
    1993.2.11 「電楽II」 主催:音楽情報科学研究会、共催:日本現代音楽協会
       [銀座 十字屋ホール]初演。
       大井手 浩子 (Soprano)
       白木 善尚 (Violin)
       小坂 直敏(ソフトウェア製作・コンピュータ操作)

  4. 真澄鏡―ソプラノとコンピュータのための Program note
    1994.11.6  コンピュータ音楽の現在 I 主催:日本コンピュータ音楽協会
       [神戸ジーベックホール]初演。
       井上 勢津 (Soprano)
    1995.9.3  MUSIANA95[Louisiana Museum, Denmark]再演。
       Hanne Andersen(Soprano)
       小坂 直敏 (ソフトウェア製作・コンピュータ操作)

  5. Prosody++―フルート,バイオリン,チェロ,ピアノとコンピュータのための Program note
    1995.9.3  MUSIANA95(Japan Today)[Louisiana Museum, Denmark]初演。
       佐藤 紀雄 (指揮)
       西沢 幸彦 (Flute)
       石井 光子 (Violin)
       松岡 洋平 (Violoncello)
       原田 敬子 (Piano)
       小坂 直敏 (ソフトウェア製作・コンピュータ操作)
    1997.11.13 NTT コンピュータ音楽シンポジウム
       [東京 芝 ABC会館]
       同一演奏メンバにより再演

  6. 鏡石―フルートとコンピュータのための Program note
    1996.7.13  コンピュータ音楽の現在 II 主催:日本コンピュータ音楽協会
       [神戸ジーベックホール]初演。
       西川 綾子 (Flute)
       小坂 直敏 (ソフトウェア製作・コンピュータ操作)
    1997.2.20 3学会共催2月研究会 共催:情報処理学会 音楽情報科学研究会
       日本音響学会音楽音響研究会,電子情報通信学会/日本音響学会 音声研究会
       [NTT 厚木研究開発センタ 講堂]
       西川 綾子 (Flute)
    1997.11.13 NTT コンピュータ音楽シンポジウム 主催:NTT コミュニケーション科学基礎研究所
       [東京 芝 ABC会館]
       西川綾子 (Fulte)

  7. 万華鏡 ―サキソフォンとコンピュータのための Program note
    1997.8.27 野田 燎 サクソメディアコンサート 企画:ノダ・ミュージック
       [大阪 ザ・フェニックスホール]野田 燎 委嘱 初演
       野田 燎 (Saxophone)
    1997.8.30 音楽の過去,現在,未来 主催:日本音響学会 音楽音響研究会
       [神奈川工科大学]
       野田 燎 (Saxophone)

  8. 音の織物―ピアノと2台のコンピュータのための Program note
    1998.10.20 渋谷淑子 ピアノリサイタル
       [東京 お茶の水 カザルス ホール]渋谷 淑子 委嘱初演
       渋谷 淑子(Piano)

  9. 会話の番 ― 篳篥(ひちりき)とコンピュータのための Program note
    2000.10.10 2000 Multimedia Art Festival 主催:韓国現代音楽協会
       [Art sonje center, Seoul, 韓国] 同協会 委嘱初演
       西原祐二 (篳篥)

  10. 射干玉(ぬばたま) ― 尺八と2台のコンピュータのための Program note
    2001.3.8 NTTコンピュータ音楽シンポジウムII 主催:NTT コミュニケーション科学基礎研究所
       [東京千駄ヶ谷 津田ホール]初演
       三橋貴風 (尺八)

  11. 千重鏡(ちえかがみ) ― 篳篥とコンピュータのための Program note
    2001.8.4 メディアアートフェスティバル 主催: 静岡文化芸術大学
       [静岡文化芸術大学]初演
       田渕勝彦 (篳篥)
    2001.12.16 コンピュータ音楽の夕べ 主催: 神奈川芸術文化財団
       [神奈川県民ホール(小ホール)]
       田渕勝彦 (篳篥)

  12. 掛鏡(かけかがみ) ― チェロとコンピュータのための Program note
    2001.10.26 けいはんなメディアコンサート2001 主催:関西学術文化研究推進機構 他
       [けいはんなプラザ イベントホール2]
       松崎 安里子(Violoncello)
    2002.2.1 eAT金沢 主催:eAT金沢実行委員会
       [金沢市]
       松崎 安里子(Violoncello)

  13. 射干玉(ぬばたま)II ― 尺八と2台のコンピュータのための Program note
    2002.8.30 けいはんなメディアフェスティバル2002 主催:関西学術文化研究推進機構 他
       [けいはんなプラザ イベントホール2]初演
       三橋貴風 (尺八)

  14. モーフィング コラージュ ― ピアノとコンピュータのための Program note
    2002.12.19 主催:アンサンブル・ヴィーヴォ2002 「創造におけるテクノロジーの可能性」
       [新宿 東京オペラシティ]初演
       秦 はるひ (Piano)
       引地孝文 (System)

First created: Sep. 11, 1996.
update: May 7, 1998.
Last update Jan. 8, 2003
Naotoshi Osaka (osaka@brl.ntt.co.jp)

  1. ◆ 雫の崩し(しずくのくずし) ― バイオリンとコンピュータのための◆

  2. ◆ 雫の崩し(しずくのくずし) ― バイオリンとオーケストラとコンピュータのための◆

  3. ◆ 喃語 ``YayaYa''◆

  4. ◆ Prosody++ ◆

  5. ◆ ピアノとコンピュータのための「音の織物」 ◆
    ピアノ:渋谷淑子
    "Sound Textile" for Piano and Computer (1998)

    この作品はピアノと二台のコンピュータによるコンピュータ・システム (システム図参照)、Windows PCコンピュータとIRCAMシグナル・プロセッシング・ ワークステーション(ISPW)を搭載したNeXTコンピュータにより演奏される。 このコンピュータ・システムは二つの役割を遂行する。一つは、NeXTコン ピュータ とISPWによって実現されるピッチシフトなどピアノ演奏のリアルタイム 加工であり、MAXによ ってプログラミングされている。もう一つは 、この作品の もっとも重要なテーマである「音 色モーフィング」による従来の楽器音や電子音 とは異なった新しい音色のコンピュータ合成 である。この音色モーフィング技術 を用いることにより、例えば、ピアノ音とギター音の中 間にある音色、あるいは ピアノ音とサキソフォンの音の中間にある音色を造りだすことが可 能になる。 さらに二つの音色間を連続的に変化していく音を造りだすこともできる。
    演奏に際してはステージ上でのピアノ演奏と共に、コンピュータから出力 されるピ アノ音を起点とするモーフィング合成音が、あたかもこうもりのように、 ピアノの音色と他 の音色との間を行き来していく。従って、スピーカーからの コンピュータ音はピアノ音の拡 張としてホールに響き、プリペアド・ピアノや 内部奏法といった従来のピアノ音拡張技法と は違った新たなピアノ音の拡張が 実現される。
    このピアノ音からのモーフィング合成音は、一部、引地孝文の協力を得、 NTT基礎研究所のスタジオでコンピュータ演算処理により制作された。そして、 この音素材群はWindows PCコンピュータ上のハード・ディスクに蓄積され、演奏に 際しては同研究所で開発された「 Otkinshi(おっきんしゃい)」というソフトウェア・ システムを用いて、コンピュータから再 生される。この「Otkinshi」はさまざまな コンピュータ音合成を実現するソフトウェアであ ると同時に、多数のサウンド ファイルの再生を制御することができる。ピアノ演奏の進行に 合わせ、リアル タイムにコンピュータ出力音をコントロールしていくことにより、そこにピアノ とコンピュータによるアンサンブルが実現される。
    この作品は、渋谷淑子さんの委嘱によりNTT基礎研究所のコンピュータ音楽 スタジオで制作された。タイトル、「音の織物」はモーフィングによる音色合成と 作品中で 使用した音列とが、あたかも織物の縦糸,横糸のように織られていく様を イメージしている。

  6. ◆ ピアノとコンピュータのための「会話の番」 ◆
    篳篥:西原祐二
    "Turn-taking" for hichiriki and Computer (2000)
    音声対話で,次にどちらが話すか,という発話権を保有することを会話の番という. 人間が話すことと聞くことが同時にできない以上,互いに会話の番を制御しながら 対話を進めていくことは,日常生活においては当たり前で議論にすらならない. しかし,音声対話の研究の意味ではこの問題が工学的にテーマとなってきたのは 作曲者が問題提起していらい,ほんのここ10年程度である.この現象を拡張して, 音楽のアンサンブルでも,「番」の制御という問題を取り上げで作品に反映させた. とくに,会話のピッチパターン,音量などの韻律をこの作品に投影させた.これは, 対話の音楽的側面を強調して作品に仕立てたことになる.

鏡シリーズ
音楽における音色の在り方を再考することを目的として,各種 「鏡」を表題とした作品シリーズ を創っている. 新しい音楽の在り方のひとつとして,音色を柔軟に制御し,さまざまな変化を演出すること により音楽創作の可能性を広げることができる.鏡はその形状により,光,色など映る物の 原型の見え方が多種多様さまざまに変化させる.このシリーズでは原音の音色加工による変化 を各種鏡の見えの変化になぞらえて表している.

作品は,以下の曲から成る.

  1. 「真澄鏡」('94)
  2. 「鏡石」 ('96)
  3. 「万華鏡」('97)
  4. 「射干玉」('01)
  5. 「千重鏡」('01)
  6. 「掛鏡」 ('01)
  7. 「射干玉II」('02)

  1. ◆ <鏡シリーズ I> ― 真澄鏡(まそかがみ) ◆

  2. ◆ <鏡シリーズ II> 鏡 石 ◆ 音のモルフィングは、高度な演奏技術として演奏者が行なうものと、コンピュータの信号処理によるもの (オフライン処理)とある。MAXではリバーブ、ピッチシフト、イフェクトなど の機能を実現させた。

  3. ◆ <鏡シリーズ III> 万華鏡 ◆
    サクソフォーン: 野田 燎
    この曲は,万華鏡の対照的な要素,本物と複製,ゆるやかな変化,一見周期的で 変化は元へ戻りそうだが,二度と同一局面がない,といった特徴を意識し,音色の 変化でこのようなことを表現しようと考えた.

  4. ◆ <鏡シリーズ IV> 尺八とコンピュータのための「射干玉」◆
    尺八:三橋貴風
    Osaka, Naotoshi ``Nubatama'' for Shakuhachi and Computer
    Shakuhachi: Mitsuhashi, Kifu

  5. ◆ <鏡シリーズ V> 千重鏡 (ちへかがみ) ――篳篥とコンピュータのための◆
    ``Multi-layer mirrors'' for Hichiriki and Computer
    篳篥: 田渕勝彦 Tabuchi, Katsuhiko

  6. ◆ <鏡シリーズ VI> 掛鏡 (かけかがみ) ― チェロとコンピュータのための ◆
    チェロ: 松崎安里子 (Ariko Matsuzaki)

  7. ◆ <鏡シリーズ VII> 射干玉II ― 尺八とコンピュータのための (初演)◆
    尺八: 三橋 貴風 (Kifu Mitsuhashi)

  8. ◆ モーフィング コラージュ ― 尺八とコンピュータのための (初演)◆
    ピアノ: 秦 はるひ (Hata Haruhi)
    システム:引地孝文 (Takafumi Hikichi)
    あらまし:音響や,譜面のさまざまなレベルにモーフィング手法を応用した曲. また,新たな楽音合成システムとして,デジタル笙のSho-So-Inを使用している.
    [モーフィング]
    モーフィングは,コンピュータグラフィクスの技術で,一つの画像から他の画像 へ滑らかに移行させる合成技術である.この技術用語は知らなくとも,人形の顔 から人の顔まで,あるいは絵画の顔から実際の人物写真まで変形する,という コマーシャル映像は皆おなじみであろう.音も同様に,ある楽器音から(歌)声まで 連続体に変化する音,あるいはこれらの中間音など現実にない音色,また,一つの 楽器の音域を越えるグリッサンドなど,演奏不可能な音を実現する合成技術とし て近年着目されている.このモーフィングを単に新たな音の素材創りというのみ ならず,譜面レベルでも,またテンポ,リズム,音響など要素間も移行するよう なものも含めて,新しい音楽表現の一つとして構築することをここ何年かの 課題としている.譜面レベルのモーフィングとは,例えばジャズからバッハの 作風まで時間とともに徐々に変わっていくような楽譜,との意味である.この曲 では,音色モーフィングはコンピュータによる合成で,ほかのモーフィングは 作曲技法として,作者がチャレンジしている.
    [曲の構成]
    この曲は,地味だが全曲を貫くテーマを中心に据え,これと関連するいくつもの 小さな素材が順次提示されていく.この中心テーマと他のサブテーマとの関わり は対比であったり,併存であったりさまざまなものがあるが,これらの要素間は モーフィング接続による滑らかな接続を意図している.
    [Sho-So-Inについて]
    コンピュータパートは主にSho-So-Inにより創られている.これは,笙の機構 を真似て実装した物理モデルシステムである.この「デジタル笙」システムは, 笙の音色を疑似する機能と,従来の笙では表現できない音色を創り出す機能を あわせ持っている.今回が,本システムを楽曲に応用する初めての機会である. 本システムは,NTTコミュニケーション科学基礎研究所において引地孝文により 開発された.このほか,同研究所製作の音合成システム「おっきんしゃい」も 使用している.