作品は視聴者がいて成立します。このときもっとも大切なファクターは時価の設計です。 時価の設計で 与えられた時間をどのように構成するかにより、作品のできばえが決まる、といっても過言ではありません。
時価には物理的な時価と、作品受容時の理解度を時間との関係で表す知覚的な時価、の二つに 大別できます。前者はスローモーション、早送りなどが日常の時価と異なるものです。後者は物理的な 時価とは関係なく、作品を受容する際の内容の密度をいいます。舞台作品、映像作品は一般に 日常生活 よりは密度が濃くなっていますが、 その度合いをいいます。 これらのいくつかの時価の例を考えてみましょう。
ファインアートのような先端芸術の時価は密度が濃いことが一般的です。それは、新しい、語法、 オリジナルの表現法を考えるのが作品のミッションでもあるため、視聴者としては理解が困難な側面が 必然的に伴います。
癒し系の作品は日常の時間以上に時価が薄くなければなりません。時がゆったりと流れ、 その中で緩やかな変化をしていることが癒しの源になります。
感覚的なものの理解に時間はかかりません。色とりどりの紅葉、ペットの映像、美人女優、肉体派男優など その印象を伝えるのに時間はいりません。一方、論理的なものの理解には、時間がかかる場合があり、これを軽減させるのが、背景、 コンテクストなども含めた説明です。説明は陽に文字やナレーションで行う場合もありますが、視聴者の理解を ある特定の方向に向けさせる、という押し付けの側面もあります。 これを物語の中で自然に行うのは なかなか困難です。
つまり、時価の設計とは、視聴者の理解度をあらかじめ推測した上で時間の設計を行うことです。 また、ストーリー作品など、論理的な思考を要求するものの時価をコントロールするのが、背景説明です。 説明がないと時価の密度が濃いまま、すなわち、難解なままで終わることもあります。 一般に、時間作品の 作家は、平易な理解とするため、こうした工夫を随所でしています。
参考:脚本家 ジェームズ三木 の講演での事例紹介
与えられた時間をどのように割り振るかじっくり練ってみましょう。既存のコマーシャルは一般には密度濃い(例:某自動車メーカのコマーシャル)ですが、 いくつか思い浮かべて時価について考えてみましょう。